コラム

BKP 高齢者の圧迫骨折と治療

掲載日 : 2025/08/26

 ~寝たきりを防ぐ~BKP(バルーンカイフォプラスティ)

 はじめに
「最近、母が背中の痛みを訴える」「転んだわけでもないのに父の背骨が折れてしまった」――。
高齢のご家族を持つ方であれば、一度は耳にすることのある「圧迫骨折」。これは単なる“骨折”ではなく、高齢者の生活の質(QOL)を大きく左右する深刻な病気です。
特に問題なのは、圧迫骨折をきっかけに長期の寝たきり状態に陥るケースが少なくないこと。寝たきりは心身の機能を低下させ、要介護度を一気に進行させてしまいます。
そんな中で注目されているのが、**BKP(バルーンカイフォプラスティ)**という低侵襲手術です。
本コラムでは、圧迫骨折が高齢者やその家族に与える影響、BKPの仕組みと利点、手術の実際、さらに再発予防まで、専門病院ならではの視点から解説します。

◆圧迫骨折と寝たきりの関係
 
 圧迫骨折とは
圧迫骨折は、骨粗しょう症で脆くなった背骨(椎体)が押しつぶされるように変形する骨折です。
主な原因は転倒や尻もちですが、中には**「くしゃみ」「重い物を持つ」「つまずき」**など軽い負荷でも発症します。
特徴的な症状には、
  •急な腰や背中の痛み
  •動くと増す強い痛み
  •背中が丸まる(猫背)
  •身長が縮む
などが挙げられます。特に怖いのが、**「いつのまにか骨折」**と呼ばれる自覚のない骨折。これが見逃すと変形が進行し、慢性的な腰痛や姿勢悪化にを起こすことがあります。
 
 寝たきりにつながる理由
圧迫骨折で痛みが強いと、患者さんは「動けない」「動きたくない」と感じます。結果、安静が長引き、次のような悪循環が起こります。
  •筋力低下(立つ・歩く力の喪失)
  •骨粗しょう症の悪化(さらに骨折しやすくなる、ドミノ骨折)
  •血栓症や誤嚥性肺炎のリスク増加
  •認知機能の低下
こうして短期間のうちに介護が必要になるケースがあるため、圧迫骨折をいかに早期に治療し、寝たきりを防ぐかが重要です。

◆従来治療の限界
これまでの主流は、コルセット着用や鎮痛薬を用いた保存療法でした。
しかし保存療法は効果が出るまで数か月を要し、その間の痛みのリスクが高まります。
  •痛みが続き、動けない
  •骨がつぶれたまま固まってしまう
  •背骨の変形が進行
といった問題が残り、高齢者にとっては必ずしもベストな選択肢とは言えません。

◆BKP(バルーンカイフォプラスティ)とは
BKPは、圧迫骨折に対して行う低侵襲の脊椎手術です。
 手術の仕組み
 1.局所または全身麻酔を行う
 2.背骨に細い管を挿入する
 3.バルーンを入れて膨らませる
 4.バルーンを抜き、できた空間に骨セメントを注入する
 5.セメントが数分で固まり、骨の形を強固に固定
手術時間はおよそ1時間くらい。切開は1cm以下と小さく、出血も少ないため高齢者でも比較的安全に受けられるのが特徴です。

◆BKPのメリット ― 家族にとっても安心な治療
  •早期の除痛効果:手術直後から痛みが軽減し、翌日から歩けることも多い
  •寝たきり予防:動き出しが早いため、合併症を回避できる
  •姿勢悪化を防止:骨の高さを回復させることで猫背進行を抑制
  •短期入院:3〜7日で退院可能なケースが多い
つまり、**「早く痛みを取って、動ける生活に戻す」**ことができるのがBKPの最大の強みです。
これは、介護負担を抱えるご家族にとっても大きな安心材料となります。

◆BKPの注意点と限界
もちろんBKPにも制限があります。
  •数年以上経過した古い骨折には効果が乏しい
  •骨粗しょう症の根本的な改善にはならない
  •骨セメントが漏出するリスクがある
  •感染や腫瘍性の病変は適応外
そのため、「骨折で強い痛みがある」高齢者が適しているといえます。

◆再発予防のためにできること
 BKPで痛みが改善しても、骨粗しょう症の進行を防がなければ再発の危険があります。再骨折を防ぐために必要なのは「包括的な管理」です。
 1.薬物療法:飲み薬、注射薬など
 2.栄養管理:カルシウム・ビタミンD・タンパク質を十分に摂取
 3.リハビリ・運動:体幹・下肢筋を鍛えて転倒予防
 4.住環境整備:段差解消、手すり、滑り止めマットの設置

◆品川志匠会病院の取り組み
当院は、脊椎手術専門病院として10年以上にわたりBKPを多数実施しています。
  •高齢者に配慮した短時間・低侵襲手術
  •骨粗しょう症外来との連携で再発予防を徹底
  •理学療法士・作業療法士による退院後リハビリ
  •関連クリニックとの連携
単に「骨折を治す」だけでなく、**「寝たきりを防ぎ、生活を取り戻す」**ことを目標にしています。

◆まとめ
 BKP(バルーンカイフォプラスティ)は、骨粗しょう症による圧迫骨折に悩む高齢者にとって、
「早く痛みを取り、再び動ける生活に戻る」ための有力な治療法です。
従来の保存療法では防げなかった寝たきりリスクを軽減し、本人だけでなく家族にとっても安心をもたらします。